印刷会社で働く2代目社長の次世代印刷ブログ

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顧客の求める「コトづくり」に総力を結集せよ(2)/勝見 明(ジャーナリスト)



◇事業の再定義を行なった企業

 モノからサービスへ。これを言い換えれば、「モノからコトへ」の転換といえる。コトとはモノと顧客との関係性のなかで生まれる。

 では、たんなるモノづくりではなく、顧客の求めるコトづくりを行なうには、どんな発想が必要なのだろうか。ここで、「キュレーション」と呼ばれる考え方のフレームワークを提起したい。

 キュレーションとは、美術館などで企画を担当するキュレーターに由来する。既存の概念を問い直し、新しいコンセプトでコンテンツを選択し、新しい価値を生み出す。ネット上に氾濫する情報に対して、ユーザー自身が情報のキュレーションを行なっている動きがアメリカで注目されている。同様にビジネスの世界でも、商品開発から経営戦略に至るまで、キュレーション的な動きや発想がみられるケースが増えているのだ。

 典型がアップルのヒット作だ。iPadは「キュレートされたコンピュータ」と呼ばれる。生みの親、故スティーブ・ジョブズはタブレットコンピュータを「パソコンとスマートフォンのすき間を埋める第三のカテゴリー」と再定義すると、多くの機能のなかからウェブ閲覧、Eメール、ビデオ、ゲーム、電子書籍といったキーになる機能を選択して絞り込み、結果、直感的に操作できる使いやすさと楽しさという新しい体験、すなわちコト的な価値を生み出した。

 グーグルも、テレビを「プラットフォームとしてのテレビ」と再定義すると、そこに載せる機能を選択し、テレビとネットを融合したホームエンターテインメントという新しい体験価値を提供した。

 キュレーションは次のようなプロセスで捉えることができる。

(1)既存の概念を問い直し、新しいコンセプトで再定義する。
(2)そのコンセプトをもとにコンテンツ(構成要素)を選択し絞り込む。
(3)新しい価値を創出する。

 これは、変化の時代の企業戦略にもみられる。一例が、全日空とLCC(格安航空会社)の共同事業に着手した成長著しいエアアジアだ。CEO(最高経営責任者)のトニー・フェルナンデスは航空会社を「ナウ・エブリワン・キャン・フライ(みんなが乗れるエアライン)」と再定義すると、コスト削減を徹底し、その一方で安全面の投資や訓練には他社以上に力を入れるなど、とるべき施策を選択し絞り込んだ。

 めざすのは、「空路を使った遠距離恋愛」といった、生活のなかに飛行機を気軽に取り込む「新しいライフスタイル」(体験価値)の実現だ。

 欧州電機最大手のフィリップスは、かつては家電から電子部品まで手がける総合電機メーカーだった。今世紀に入ると自らを「健康とやすらぎを提供する企業」と再定義すると、7つあった事業のなかから、医療、照明、家電の3つに絞り込み、複雑化する社会にあって「シンプリシティ」というシンプルさのなかの満足感を提供しようとしている。

 従来も事業の「選択と集中」はあった。異なるのは、再定義と新しい価値の創出というプロセスがあることだ。日本でも、危機に直面した企業はキュレーション的な戦略に踏み出している。代表例が日立製作所だ。

 世界金融危機の直撃を受け、09年3月期決算で国内製造業では過去最悪の7,873億円の最終赤字を計上。グループ企業の会長職から本体の会長兼社長(当時)に就任した川村隆氏は、日立を「総合電機メーカー」から「社会イノベーション企業」へと再定義すると、「ITで高度化された社会インフラの提供」というコト的な価値の実現を目標に据えた。

 そのため、事業の中核となる上場子会社を完全子会社化する一方で、ボラタイル(価格変動が大きい)な分野からは距離を置く方針を明示。「日立はなぜ得意とは思えない分野に注力するのか」と社外から指摘されていた薄型テレビ事業は海外工場を閉鎖し、電子機器受託製造サービス(EMS)へと切り替えていった。

「すべての社員の気持ちを揃え、日立を再生させるには、自分たちのアイデンティティーを明確にする必要があった」と川村隆・現会長は話す。

 一連の改革でもう1つ注目すべきは、「グローバル人財マネジメント戦略」と呼ばれる取り組みだ。内外の全グループの人材データベースを構築し、世界の各地域での事業特性に応じた最適な人材をキュレーションしていく。この戦略から想起されるのは、組織の重心を最前線へと移し、関連部門はそれを支援するというアメリカ海兵隊型の組織運営だ。

◇無名社員の「全員経営」の時代

 パナソニックの経営戦略にもキュレーションの発想が読み取れる。三洋電機とパナソニック電工を完全子会社化し、AV機器や白物家電、電池、建材、電気設備、一戸建て家屋、業務用冷熱機器、電子材料まで幅広く手がける「世界でただ1つのメーカー」になったパナソニックは、従来の電機メーカーから、来るべき2018年の創業100周年に向け、自社を「エレクトロニクスナンバーワンの環境革新企業」へと再定義した。

 そして、幅広い商材の強みを生かし、顧客ごと、あるいは案件ごとに全商材のなかからそれぞれのニーズに応じた製品やサービスをキュレーションし、「そろえる価値」と「つなげる価値」を組み合わせて、環境やエネルギーのソリューションというコト的な価値の提供をめざす。

 ここにみられるのも、それぞれのプロジェクトを中心に置き、全グループが支援するアメリカ海兵隊型の組織だ。それは創業者・松下幸之助が唱えた全員参加の「衆知経営」の現代的なあり方ともいえる。

 他業界に目を向けると、国内最大の総合化学企業である三菱ケミカルホールディングスにも同様の動きがみられる。同社はグローバル競争に生き残るため、組織の再編に取り組み、傘下に複数の化学メーカーや医薬品メーカーを抱え、合成繊維・樹脂メーカーの三菱レイヨンも経営統合。結果、この会社は何のためにあるのかというアイデンティティーがみえにくくなった。

 そこで、経営手腕が注目を集める小林喜光社長は、自社を「KAITEKI(社会の快適)を実現する」と再定義すると、各事業の評価もたんに損益だけでなく、「サステナビリティ(持続可能性)」「ヘルス(健康)」「コンフォート(快適)」の三軸で基準を設け、KAITEKI度指数で評価する仕組みを導入した。

 こうしてみると、日本の製造業がめざすべき明日の形がみえてくる。キュレーション的な発想で自らのあり方を問い直し、事業や製品を選択し絞り込み、たんなるモノづくりではなく、新しいコト的な価値を生み出す。その際、上流部門ではなく、最前線部隊を中心に位置づけ、全組織で支援する仕組みをつくりあげる。

 モノづくりからコトづくりへ、突出した固有名詞が牽引する経営から、無名の社員たちが総力を結集する「全員経営」へ、いち早く転換した企業が変化の時代を生き残る。EV(電気自動車)が“電気製品”でもあるように、われわれの生活の多くの面で再定義が進むなかで、自らを的確に再定義できない企業は消え去る現実を、われわれは近々に目にすることになるだろう。


http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120116-00000002-voice-bus_all
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